郵便ポスト
探し求めて
駐屯地
はい。続きです。
駐屯地にやってきました。
あたりは暗く、駐屯地入口だけがぼんやりと闇に浮かび上がっています。
オリーブドラブの服(だったと思います。迷彩かも知れませんが)を着た自衛官が、背筋を伸ばして直立不動で警備しています。
子供心に近寄り難い雰囲気はひしひしと感じました。
母は駐屯地にぶち当たる片側1車線道路の、左寄りに車を止めました。
それこそ、自衛隊の真ん前です。
駐屯地入口に車の頭を向け、止まる格好になりました。
ガクンッとマニュアル車は止まり、母は
「ここで待ってなさい」
とだけ言うと、車を降りました。
どうするのかな。と子供心に疑問でした。
パッと見て、ポストがあるかどうかはわかりません。
聞いてみるのかな?
筆者は助手席で母の姿を見守りました。
普通のですね。通常人としての感覚と常識があれば、番をしている自衛官に声をかけると思うんですよ。
ポスト見せてくれませんか?
と声をかければ、勘の鋭い自衛官なら
ああ、ポストを見に来たんだな。
と万が一にも思うかもしれないじゃないですか。
我が母は、わき目も振らず駐屯地の正面口へ駆け出したのです。
歩くとか、そんな感じではありません。
腕をピストンのように振りながら
走っていったんです。
自衛官の視線が瞬時に母へ向きました。
しかし、母は止まりません。
ポストを見る。その目的のために止まることはできなかったのかも知れません。
自衛官も面食らったと思います・・・
ガクガク走ってきた車が突然基地前で止まり、車から降りてきた女性が駐屯地内に駆けてきたのですから・・・
母は、警備している自衛官の前を素通りしました。
完全に基地の中です。
次の瞬間、母は3-4人の自衛官に取り囲まれました。
母は自衛官にボディランゲージを交え何かを伝えようとしています。
無理です。
ここは軍事基地です。
言うまでもなく関係者以外お断りです。
身振り手振りする母を取り囲んだ自衛官達は、建物の方へ母を囲んだまま去ってしまいました。
一部始終を車の助手席から見ていた、当時小学一年生の筆者は、さながら怯えるチワワのように、暗い車内でひとり震えていたのでした・・・。
しばらくして、母が戻ってきました。
自衛官に見送られ、眉間にシワを寄せて憮然とした表情で歩いて戻ってきました。
母は
ポストを見に来ただけと言ったが、わかってもらえず、結局断わられた。
と、納得出来ない様子で言っていました。
母が無事戻ってきたので、とりあえずは安心しました。
それとともに自衛隊って冷たいと子供心に思ったのでした。
ポストを見に来ただけなのに・・・と。
まあ、大前提として、自衛隊に郵便ポストを見に行く事がそもそもおかしいのですが。
母は立腹して自衛官は冷たいと文句をいいながら、車を発進させました。
そして、帰路につき、宿題は結局想像で書きました。
当時筆者7歳、母36歳のほろ苦い思い出です。