こんばんは皆様。
今夜はブックレビューです。
有名なホラー映画「シャイニング」をご存知でしょうか。
ジャック・ニコルソンが斧でドアを破壊し、包丁を持った病的な表情をした痩身の女優さんが悲鳴をあげる…
ドアの裂け目から、ジャック・ニコルソンが凶悪かつ不敵な顔をのぞかせる…
これです!
見たことありますか?
原作は言わずと知れたモダンホラーの帝王、スティーヴン・キングですね。
ワタクシ、スティーヴンキング先生のファンを自称していながら…
この「シャイニング」未履修だったのです!
このキューブリック監督版映画も未履修です。
スピルバーグの「レディプレイヤー1」でもネタにされたように、キング先生はこの鬼才キューブリックの映画に不満を持っていたそうです。
曰く「空っぽのキャデラックだ」と(笑)
先生がそういうならば、原作を読むほかあるまいと読みましたよ。
「シャイニング」を。
いや~面白かったですね!
あらすじを簡単にご紹介します。
作家志望の元教師ジャック・トランス。家族は妻ウェンディと、六歳にもならない一人息子のダニー。
コロラド州ロッキー山脈にある歴史あるホテル、「オーバールックホテル」に冬季の住み込み管理人として一家はホテルにやってくる。
ホテルは豪華だが、冬季は雪に閉ざされ、下界と遮断されてしまう。
ジャックは管理人の仕事をしながら、この冬ごもりで戯曲を書きあげようと思っている。
ジャックはかつてアルコールに溺れ、さらには持ち前の癇癪で生徒を殴ってしまい、教師をクビになっていた。さらに、酒と癇癪から、息子に手を上げ骨折させてしまった過去もある。
それは自身でも反省しており、酒と癇癪は抑えている状況にあった。
妻ウェンディは夫の癇癪とアルコールを不安の種としており、一時は離婚も考えたが折り合いの悪い実母と息子の事を考えると踏み切れなかった。
ただ、夫は愛しており、微妙な距離感を感じつつ再構築したいと考えている。
息子のダニーは強い超能力「輝き(シャイニング)」を持っており、テレパシーや予知能力を持つ。
そのため、父母の微妙な関係や思いを心底感じ取っており、年齢不相応なまでに家族に気を使っている…。
ホテルのコック、黒人のハローランはダニーと同様超能力者で、すぐにダニーと打ち解ける。
そして、ホテルの異変に気を付けつつ、何かあれば自分を呼ぶようにダニーに言ってフロリダへ去る。
ジャックは父親としての責任感、家族との微妙な関係、作家としての夢目標…様々な悩みに思い悩むが…次第に、ホテルが持つ怪異がその心を蝕んでゆき…
といった感じです。分かりにくくてすいません。
私は「霧」「呪われた町」「シャイニング」と今年本腰を入れて読み始めたのですが、
序盤の助走が結構長いですね。いずれも。
読書サイトなどには「執拗な日常描写が辛くて挫折」と書いてあったりしたのですが、キング作品はその傾向が強いのかもです。
ですが、物語に盛り上がりを持たせるための舞台背景や、登場人物の心模様を表現豊かに描写していると推認します。
「シャイニング」も、映画のようにパパが狂って凶器を振りまわすのは下巻の中ほどを過ぎ、終盤に差し掛かってからです。
上巻は丸々導入部と言ってもいいかもです。
個人的に「シャイニング」を楽しむポイントは
〇 絶妙な距離感と、不穏な心情を持つ父・母・息子の心の動きを楽しむ。
事だと思います。
彼らに、何があってこんな関係性になったのか、どうして愛し合う家族が離婚の危機に瀕したのか…そこを探って、味わうとより一層、作品が楽しめると思いますよ。
そしてここから、怪異ホテルの力が家族を崩壊に向かわせていくのです。
ダニーの家族を思いながら、自分の能力に怯える姿。
癇癪とアルコール中毒から、家庭崩壊寸前までになった父親ジャックの思い…
ただ、ジャックは癇癪持ちのクソ野郎じゃないんです。
教師ができるほどの頭脳を持ちながら…母親に平気で暴力を振るうワンマンでアル中な父親の存在‥彼がジャックに暗い影を落としているのです。
ジャックは癇癪とアル中をひたすら後悔しながら、時折妻ウェンディが見せる非難がましい目に精神を削られていきます。
私も子育て世代ですからね。子どもを頭ごなしに怒ったこともありますし、妻とボタンの掛け違いというか、子どもがいることで諍いが起きてしまったということもあります…
そんな父親としてのやるせなさというか、自分が至らない、だが家族は愛しているし失いたくない…ジャック・トランスの思い悩む姿に、思わず共感をする部分がありました。
作中で、ジャックがスズメバチの巣を駆除して、心配する妻を横目に、面白いだろうとダニーに渡すのですが…ホテルの魔の力でハチが駆除しきれておらず…眠るダニーをハチが何度も刺してしまいます。
その時の、「大丈夫って言ったわよね?!」という妻ウェンディの責める言葉、非難のまなざし、夫婦の衝突…
ああ…来る…心に来る
私は思わず「よし、息子にハチの巣をオモチャにさせるのはやめよう」と誓ったのでした。
キング先生は実際にアルコールやドラッグで苦しんでいたそうですから、家族とのこういったやり取りもあった事でしょう。
不安定なところのある、ジャック・トランス一家
彼らの揺れ動く心を、悪意のある「オーバールックホテル」が侵食していくのです…
途中で、息子ダニーは「輝き」を使い、フロリダにいる黒人コックのハローランに助けを求めます。
また、ハローランの心模様も描写が良くて…
予知能力があり、自分の兄が死んだことすらそれで知ってしまった人なんですが…
あのホテルに戻ったら、自分は命を落とすだろう
とハローランは悟るんですね。
あの子を見捨てることができるんだろうか…助けるべきだろうかと…
さて、それからハローランはどうするのか、それはお楽しみです。
次第に崩壊して、侵食されていく家族の姿が怖くて面白かったです。
「呪われた町」の舞台セイラムズ・ロットが徐々に怪異に侵食されていく姿と同様に楽しめました。
超有名作品ですし、映画も周知のとおりですので、ネタバレしますが最後はパパがああなっちゃいます。
ですが、それを知ってても十二分に楽しめる作品でした。
是非お勧めですよ。
いつか、時間のある時に映画版も見てみたいですね…
何なら、「もうこれ以上ディスらない事」を条件にキューブリックから権利を引き受け、キング先生本人がメガホンを取った(製作総指揮として)ドラマ版も気になります(笑)↓↓
結局はホテルに巣くう悪意とか、怨念とかそういったものが関係しているのは間違いないんですが、他人との関係や、目標や心情、すれ違い…そういったものが非常に大きなウェイトになっていた作品だったと思います。
素晴らしい作品でした。