「ぶにぶにのお肉」
贅肉のことではない。
食肉の脂肪分や柔らかい所のことを、我が家ではそう呼ぶ。
例えば、チキンの皮、ぽんじり、ホルモンの白い雲のような部分、ステーキの端っこの脂…この様な「ぶにぶに」とした脂の塊のことだ。
我が家は皆これが好きである。
料理に出しても切り分けて、大事に味わって食べる。
「『ぶにぶに』がうまい」と子どもたちは口々に言う。
「ぶにぶに」を求めるがあまり、息子と娘が喧嘩をしたことも多い。
どちらの皿の肉に「ぶにぶに」が多いかと。
そのうち最も大きいもの(特にステーキの脂肪分は)は、まず私が頂くようにしている。
「ぶにぶに」が家族問題に絡めば、たちまちに昭和スタイルの家父長制が敷かれる。
日々働いたこの家長であるお父さんに「ぶにぶに」を寄越しなさい。
誰のお陰で「ぶにぶに」が食卓に並ぶのだ……と。
そして争いは繰り返される。
滋味溢れ、旨味と脂分のハーモニーが何とも言えない。
いつかステーキの端っこの脂だけを売り出してくれないか。
高いステーキの端っこにしか、この白い至宝がないのが残念でならない。
……だが妻はぶにぶにを嫌がる。
鶏皮も苦手で、モモより胸肉が好きなほどだ。
私や子どもたちが「ぶにぶに」を取り合い、舌鼓を打つ姿を信じられないという顔で見ている。
私は、スーパーの牛脂を眺めて思う。
いつかこれだけを、それこそ、ニンニクの茎と炒めたりしたら…激ウマなんじゃないかと…
だが思うだけだ。
健康診断にひっかかり…
胃カメラを飲まされて「オエッ」と情けない声を出した私には、あまりに危険すぎる禁断の味なのだ。
いつか良質な脂身がスーパーの肉売り場に並ぶ日を夢見ている。